見えるものと見えないものを見たい
─────── 西川 美穂さん
こんにちは!フジギャラリー新宿の原田です。
フジギャラリー新宿では、インテリアにマッチしたアート作品をご紹介しています。抽象も多く扱っていますが、お花や動物の絵、風景画ならば何となくわかっても、抽象画は、ただの線だったり、丸だったり、絵具を散らかしただけのように見えたりして、「分かるようで分からない」というのが、正直な感想ではないかと思います。
そこで、完璧な左脳人間・原田が、アートを生み出す方々にインタビュー。今回は、芥川賞受賞作・又吉直樹著「火花」の装丁画の作家、西川美穂さんです。
《イマスカ》と西川 美穂さん。2019年1月
「デッサンが油絵向き」と
——— フジギャラリー新宿がヒルトン東京の地下に移り、「なんだか見たことがある絵だ」と思ったのが、西川さんの「イマスカ」でした。
ありがとうございます。あれは、多摩美大の院の時に描いたもので、「ART BOX大賞展」で大賞を受賞し、その後ART BOXが作った画集に収容されていた作品です。
——— 「イマスカ」については、のちに伺うとして、絵に目覚めたのはいつごろでしたか?
小学生の時から、女の子の絵などが好きで描いていました。父は普通のサラリーマンなのですが、母は絵が好きで、母方の祖母は書道の師範を持っています。中学校3年生ぐらいから美大進学は考え始めていましたが、高校は普通の高校に行きました。美大に進むための予備校に通い始めたところ、先生に「君のデッサンは油絵向き」と言われたのが、具体的に油絵に進むきっかけだったかもしれません。
——— 美大進学は苦労なさった。
現役ではどこにも通らなくて、でも浪人はできないので、多摩美術大学の夜間にあたる、「造形表現学部」(2014年に学生募集停止)に行きました。夜間部と昼間部は、通うキャンパスも違いました。社会人の方も通っていましたから、そういう意味では刺激がありました。午後1時ごろから授業があり、夜9時ぐらいまでアトリエに入り浸っているような状態です。
夜間部でよかったなと思うのは、昼間部だと日本画と油画で授業がまったく別なのですが、夜間だと日本画の学生も同じアトリエで制作することになります。私は油画でしたが、日本画家の宮いつき先生にご指導をいただきたかったので、日本画の学生と同じアトリエにいました。私は日本画では上村松園の作品に魅せられました。自分の作風に影響したかもしれません。
《skirt》 652×652㎜ キャンバスに油彩
評価され自信 《イマスカ》回帰
——— 確かに。上村松園は、「イマスカ」に通じる色っぽい朱赤が特徴ですね。「イマスカ」は、どのように作られたんですか?
自分が自宅にある毛布をかぶって、それを写真に撮り、絵にしました。大学院の時に描いた作品なのですが、実はああいった作品は大学時代はあまり評価されなかったので、人物も並行して描いていたんです。人物を描くのも好きなので。ですが、卒業後にART BOX大賞を受賞したことで、また「イマスカ」の作風に戻ったという感じでしょうか。
——— 装丁画になった時は、どんなふうに連絡が来たのですか?
ART BOXの方から、「又吉さんが使いたいみたい」という連絡がありました。よく覚えてないのですが、初刷りが10万部ぐらい。「増刷すると思う」とおっしゃっていたと思います。売れっ子芸人の又吉さんですから、話題にはなるんだろうなと思いましたが、実は、その頃、妊娠中で、つわりが辛くて、あまり覚えていないのです。芥川賞を受賞して、書店にずらっと並んでいる様子などは、テレビでは見ていましたが、つわりがつらかったので、喜びを噛み締めるという感じではなかったです(笑)。
——— 「火花」は200万部を突破する大ヒット、映画になったり、翻訳されたり、その後も広がっています。
それなりに反響はあるだろうと思ってはいましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。当時は、HPをつくるとか、SNSで発信するという手段があまりなく、自分の作品だと周知することができなかったのがもったいなかったですね。でも、台湾での翻訳版もそのままの絵が使われていたり、朗読版でもアレンジされた作品を使われていたりするので、その点は嬉しく思っています。
——— 出来上がった作品には、どんな思いでいますか?「子どものような」とおっしゃる方もいますが。
「イマスカ」に関しては、もはや自分のものではない感じです。もともと、作品については、描いているときは、とても大切なんですけれども、出来上がったものにはあまり関心がないところがあります。「イマスカ」は、資料として手元に必要だから置いていますが、実際に自分が子どもを産んでみて、子どもとは全然違う、と感じています。
「つわり」の辛さで新キャラ誕生
——— かわいらしい作品に「まくらちゃん」などがありますね。
子どもができてから、できたキャラクターです。またつわりの話になるのですが(笑)。気分が悪い、というので妊娠が発覚して以降、半年間つわりに苦しみました。吐き気がして、頭痛がして、体がだるくて。ほとんど家で寝込んでいる状態で、まさに枕と自分が一体化していた(笑)。そんな親近感もあって、誕生したキャラクターです。
左:《おばけ》150×150㎜(額寸)木に油彩
右:《まくらちゃん》455×455mm 木に油彩
——— 経験がなんでも絵になるんですね。ご出産後、作風に変化はありましたか?
それまでは油絵だけを描いていたのですが、油絵は乾くのにとても時間がかかりますので、水彩にチャレンジすることにしました。よく描いている「細胞」も「見えるもの、見えないもの」のテーマに即しているつもりです。細胞は見えないのに、私の体の中で分裂していき、赤ちゃんが育つ、生まれた後も育っていく、ということに不思議な何かを感じました。見えたり見えなかったりするところに魅力を感じるのは、水中では見えなくなるクラゲなども同じです。
左:≪jellyfish≫ 水彩、紙 365×440mm(額寸)
右:≪cell≫ 水彩、紙 424×348㎜(額寸)
——— 水彩は、子供部屋などにぴったりだとインテリア関係者からは評判です。また、“famous character”シリーズは、毛布をかけているのに、某ネズミの国のキャラクターが想像されますね。
このシリーズも、子供ができてからです。実際に、ぬいぐるみを星の柄の毛布で包んだものを描きました。ふわっとした雰囲気が好きなのです。キャラクターでいうと、「厚塗りシリーズ」もあります。
油絵具をチューブから直接キャンバスに塗りつけています。元のイメージを、あんまりはみ出してしまわない程度に崩して。崩しすぎるとわからなくなるので。これは、乾くのに1ヶ月ぐらいかかりますが、そういう作り方もしてみたかったので。
左:《202023(min)》100 x100mm Sold out
右:《famous character》455x455mm Sold out
——— 今後の活動については。
まずは、海外のフェアなどに出したことがないので、ぜひ機会を見つけて出したいと思っています。海外では大きい作品が必要なので、そういう作品を制作していきたい。大きな作品、パブリックアートの依頼がきたらいいなあ、という希望もあります。パブリックアートに選ばれるということは、自分の作品が見る人に与える何か、が認められるということになると思っていますから。自分に要求される絵の大きさが、世の中に求められる大きさ、だと思っています。今後自分の絵が、そういう存在になれたらいいなと思っています。
インタビュー後記 ————————————
西川さんは、大胆な色と構図の作品からは想像できない控えめな印象の方ですが、子供のころのお話では「負けず嫌いだった」とぽつり。やはり「絵をやりたいのだ」という強い意志を曲げずにここまでこられたのかなと感じました。今後ますますのご活躍を期待しています。
(原田愛)
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