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画家たちの心象風景を歩く⑥

見つめて、言葉にできない表現を

        ─伊藤朋子さん

    こんにちは!フジギャラリー新宿の原田です。

    フジギャラリー 新宿では、インテリアにマッチしたアート作品をご紹介しています。抽象も多く扱っていますが、お花や動物の絵、風景画ならば何となくわかっても、抽象画は、ただの線だったり、丸だったり、絵具を散らかしただけのように見えたりして、   「分かるようで分からない」というのが、正直な感想ではないかと思います。

 

    そこで、完璧な左脳人間・原田が、アートを生み出す人々にインタビューするシリーズ。今回は、「抽象」ではありませんが、透明感あふれる作風が持ち味の伊藤朋子さんです。

 

 

≪姿を見せる≫ キャンバス・油絵具 803×530mm 伊藤朋子=港区西麻布のサァラ麻布

 

 

≪光のあいだ -marbles-≫ キャンバス・油絵具 1167×803mm

 

 

平成元年生まれ  高1で美術の世界へ

 ——— フジギャラリー 新宿での初の個展から2年たちました。詳しい経歴を伺うのは初めてですね。どちらでお生まれですか?

 平成元年、東京生まれです。8歳ぐらいからは神奈川県で暮らしています。

 

 

 ——— どんなお子さんでしたか。

静かな子だったと思います。体育と美術が得意でしたね。

 

 

 ——— 芸術家は運動が得意な方が多いですね。専門的にアートを学んだのは?

 母が美大の油絵出身で、その関係で絵画教室を開いたりしていたので参加していました。民間美術館のワークショップに参加していた覚えもあります。ワークショップでは、鳥の剥製を描いたり、子供同士でお互いの顔のレリーフを作ったり、フジテレビのあるお台場にスケッチに行ったりしました。それ以外には、小学校高学年までは、女子大の教室でやっている美術教室に通っていました。

 

 

 ——— けれど、その後公立の普通高校に進み、その時点では美術高校に行くという選択はなさらなかった。

 はい。高校では美術部に所属はしていたと思うのですが、一度も行った記憶がありません。ただ、美大にいくとしたら予備校に通う必要があるので、通学に時間がかかるような学校は負担になると考え、自宅から自転車で5分の高校に進学し、1年生の夏休みごろから美大進学の予備校に通い始めました。

 

 

モチーフのある空間「筆で触る」

——— 武蔵野美大ではどんな学びを得ましたか?

 授業が面白かったですね。美術だけでなく、デザインや建築の授業も楽しかった。美大というのは、絵を勉強する場所というより、多様な表現をする人たちがいることを学ぶ場所だったと思います。

 

 

 ——— 伊藤さんの作風は、グラスや花瓶、花や動物を、一つの色合いの濃淡で描いている作品が多いと思いですね。モチーフはどんな風に選んでいるのですか?

 モチーフは直感的に「描きたい」と思ったものです。今も庭の花が咲き始めたので「描かなくちゃ」と思っています。モチーフを描いているというより、グラスや花瓶のある空間を、筆で触る感じ。空気を触っているんです。絵の完成を半分ぐらいは想像しながら制作していますが、どちらかというとモチーフという地図を見ながら歩いている感覚です。

 

 

 ——— 実物を見ながら描かれるとのこと。お花などは、写真に撮らないと萎れてしまいますね。

 萎れるのもそうですが、描いているうちに蕾がどんどん開いていきます。だから、大急ぎでその瞬間を鉛筆デッサンでかきとめます。グラスも、自然光が当たった様子が好きなのですが、太陽の当たり方は室内では刻一刻と変わりますし、天候によっても違います。でも、そのすべての瞬間の姿を、全部絵に込めるんです。

 

 

左:≪モチーフの種 Ⅱ≫ 水彩、紙 350×440㎜
右:≪モチーフの種 Ⅲ≫ 水彩、紙 350×440㎜

 

 

「筆を置く瞬間」訪れるまで

 ——— 同じモチーフを、いくつも描かれていますね。学生時代はガラスのコップやピッチャー、水彩で松ぼっくり、花や動物。ゾウの絵も印象的です。

  モチーフを見つけたら、たくさんドローイング(素描)をします。何枚もドローイングをしながら見つめていると、見えてくるかもしれないと思っています。グラスのような日用品以外の、ゾウなど、一緒に暮らしているわけではない大きい動物の場合は、よく関わっていきたいと思っています。いろんな姿を見て、どう見えて、どう感じるか。ゾウは、ズーラシア(横浜市旭区の動物園)に行って観察しましたが、本当ならアフリカのサファリみたいなところに取材旅行に行って、1日中じっと見つめて描きたいぐらいです。大きな動物は気持ちがのんびりするので好きですが、小さくて動きが見えないぐらいのすばしこい動物も、絵にしてみたら面白いかもしれません。

 

 

 ——— 作家さんによって、頭に浮かんだ完成図を絵に写しとる人と、描きながら近づいていく人というのがいるようですが、伊藤さんはどうですか?

  頭の中に完成図がないわけではないけれど、筆を置く瞬間が来るんですね。途中で半分ぐらい絵を塗りつぶすこともありますが、それはその前のものをクリアにしてしまうのではなく、その上に塗り重ねるというイメージです。

 

 

《明るい方へ》キャンバス・油絵具 530×455mm

 

 

自分の感触 絵で伝えたい

——— 作品最終目標は。 

 自分の感じたことを、言葉にできないから絵にしているんですけれども、でも、絵を見た誰かの口から、自分が感じたことと同じ言葉が出てきたら、絵で伝わったな、という気がします。

 

 

 ——— なるほど、絵が感覚を伝えるメディアなのですね。

 今後もいろいろ描いていきたいです。静物的なものに加えて、広い空間、風景も。

 

 

 ——— でも、どの絵も、きっと伊藤さんらしくなりますね。

そうだと嬉しいです。

 

 

インタビュー後記 ————————————

 伊藤さんにとって、絵は「言葉」。そして、変化し続けるものを1枚に納める、という、理論的にはできないことをやろうとしている大変実験的なアートと言えるのかもしれません。奇抜ではないモチーフと、クリーミーなパステルカラーに秘められた「野心」が、見る人に届くと良いなと思います。

(原田愛)

 

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